醒めない
妻とケンカして、こどもみたいにずっと買わずに我慢してたものを買ってしまった。スピッツのCD。
「醒めない」
なんか、
最近のスピッツはすごくストレートだなって思う。まだまだ醒めない。アタマんなかでロック大陸の物語が、最初ガーンとなったあのメモリーに今も温められてる。さらに育てるつもり。
なかなかいい年して醒めない、とは言えないものだけど、でもそういうのってすごくかっこいいって思う。
***
先週、授業参観があった。
妻の体調が良くなかったこともあったし、1年に1度くらいは学校でのちいちゃんの様子を見てみたいなあという気持ちもあってぼくが行ってくることに。
1年生だった去年は1学期毎に1度、3回の授業参観があったけれどぼくが出席できたのは最初の1回だけ。
そのときははじめての授業参観だったからか、それほど多くはなくとも何人かお父さんはいたのだけれど、今回はお父さんはほぼぼくだけ。ほぼというのはもうひとり来ていたお父さんは兄弟姉妹がいるのか出たり入ったりだったから。
なのでなんとなく、ぼくとしてはちょっとしたいごごちの悪さを感じながらの授業参観だったのだけれど、こどもたちにはもちろん関係はなくてお父さんが来ていることが珍しいのか、
「だれのお父さん?」
で、
ぼくが答えようとするとちいちゃんの友達の女の子が、「ちいちゃんのお父さんだよ」と代わりに答えてくれた。
授業参観の内容は国語で、「ふきのとう」というおはなしの音読。4つくらいの班に分かれたこどもたちがそれぞれ担当した登場人物のセリフを前に出て音読していくというもの。
こどもたちの音読は、とても素敵だった。
もちろん長短それぞれで、大きな声でしっかり読み上げる子や表情豊かに感情を込めて丁寧に読み上げる子もいれば、早口になってしまったり、恥ずかしがっていたり、声が小っちゃくなってしまっていたり、教科書で顔を隠してしまったりする子ももちろんいて、でもみんな一生懸命。一生懸命な姿がとても素敵で、かわいらしかったり、かっこよかったり、とても心打たれた。
ちいちゃんはというと、ちょっと照れちゃってたのか、だんだんと教科書が上に上がってきてなんか顔が見えないよってこともあったけど、気持ちを込めて、いつものちいちゃんとはちょっと違うちょっと大人びた、とてもやさしい声で雪のセリフを読み上げていた。
「とても素敵だったよ」
席に戻ってきたちいちゃんにぼくが言うと、ありがとうと言ってちいちゃんは笑った。なんだかその表情がまた大人びていて、いつのまにか、ほんとうにものすごいスピードでちいちゃんは成長しているんだなって、そんなことを思った。
ちょっとだけ残念だったのは担任の先生の考えが伝わってこなかったことかもしれない。普段の授業風景を見てもらうっていう意図なのは分かるし、きっと授業参観というのはこういうものなのだろうけど、なんの説明もなく普通に授業が始まり、そして終わってしまった。
個人的には、これからどんな授業をするのか、こどもたちにどんなことを伝えたいのか、そのためにこんなことをしてきた、みたいなことを最初に説明してくれたらよかったのにと思ったりした。
だってもともと授業参観なんて普通のことではないんだし、こどもたちだって普通の授業だなんて思ってないのだから、特別感丸出しでもいいんじゃないかなってぼくはそんなことを思うから。楽しく、無邪気にね。
なんて、
それは先生じゃないから言えるのかもしれないし、ぼくは行けなかったのだけれど、授業参観のあと学校説明会というのがあったのでそこでちゃんと説明されていたのかもしれない。
***
こどもたちの授業を受ける姿を見ていて、なんとなくぼくは自分がこどもだったころのことを思い出したりしていた。
具体的なことはなにも思い出せない。どんな授業だったか、なにをしたか。でもいつも母が来てくれて、ぼくはなんとはなしにそわそわとふわふわとした気持ちでいたような、そんな気がする。
あのころ、ぼくはどんなことを考えていたのかな? どんな未来を想像していたのだろう。それともなんにも想像もしていなかったかな。
ただ、
ふわふわそわそわした気持ちはいまも変わらない。たいしたひとでもないのに、もっともっとなにかできるんじゃないかって気がしている。
こんなはずじゃない。
もっともっとなりたい自分があって、ぼくはまだまだどこにも辿りついていない。でも考えてみたら生きているかぎり辿りつく場所なんてないのかもしれない。
醒めない。
それってこういうことも言うのかな。ぼくにはロック大陸のような、ガーンときたものなんてないけれど、なんかずっとそういうものにあこがれて、それを探し続けているような気がする。
ねえ、
ちいちゃん。
きっとなにか、あるはずだよね。それっていくつになったって変わらない。ぼくもきみたちと一緒。きみたちがこれから探し続けるものを、ぼくもまだ探し続けている。
日曜の朝にはパンを焼いて
ちいちゃんがまだ2歳か3歳かという頃、ぼくは小さなパン屋さんをしていた。といっても1年半ほどの短い期間だけれど。
でも不思議なことにちいちゃんとはあんまりパン作りをしたことがなかった。まったくないというわけではないけれど、お菓子作りに比べたらないにひとしい。
パン屋さんをしていた時期はまだちいちゃんが小さ過ぎたということもあるし、ぼくに一緒になにかを作るという余裕がちょっと生まれた頃にはちいちゃんはどちらかといえばお菓子作りに興味を持っていた。ちなみにぼくはお菓子作りも大好き。
なのでちいちゃんとパン作り、というのはあんまりなかったのだけれど、なんだか唐突にちょっと一緒に作ってみるのもいいかなあなんて思うようになって。
で、
今週は土曜日が当直で出勤なので日曜の朝、ちょっと強制的にちいちゃんと一緒にパン作り。うまくできるといいな。
***
さて、
ところでぼくがいちばん最初に焼いたパンはベーグルだった。というのも妻の実家の近くにとてもおいしいベーグル専門店があって、ぼくたちはそのベーグルをほんとうによく食べていて、あるとき、
「これ、自分で作れたらいいな」
と、ぼくは天啓のように思った。それでレシピを自分なりに調べて作ったのが最初だった。
上手く焼けたかっていうと、
焼けました。シワシワのベーグルが。でも初めて自分で捏ねて焼いたパンはそれでもとてもおいしくて、思い出深いもの。
うん。
だから、
ちいちゃん。
悪いけどちいちゃんの最初のパン作りもベーグルということで。まあ、正確にはいままでもロールパンとかいくつか一緒に作ってはいるのだけれど、でも多分最初から最後まで一緒に作るのはこれが初めての経験になるはずだよね。
***
とはいえ、
最初にベーグルというのはあながち間違ってもいないよなあとも思っていて、茹でて焼くというちょっと特殊なパンなので難しいと思われがちだけれど意外とそんなこともなくて。
いくつか理由はあるのだけれど、まずベーグルはかための食感のパンで、茹でるという工程もあるから発酵時間は短めで大丈夫だということ。ベンチタイムのあと、成形をしてそのまま20~30分程度発酵させるだけ。ちょっと早く起きるだけで朝食前に焼くこともできる。
また、かためのパンだから水分も少なめでいいということ。水分の少ない生地はかたくて女性には大変とよく本などには書いてあるけれど、個人的には手ごねの場合、水分の多い生地よりも水分の少ない生地の方が扱いやすい。
そして材料がとてもシンプルだということ。ベーグルには基本的に油脂は必要なくて、小麦粉(強力粉)、砂糖、塩、イースト、それから水、これだけで作れてしまう。なんか簡単そうだなって思いませんか?
こんなわけでぼくの最初のパン作りはベーグルだった。
で、
以下、ちいちゃんに作ってもらうための覚書きということで。ちなみにちいちゃんは妻の実家の近くのベーグル屋さんのベーグルが大好きだし、パンを茹でるってのもこどもは面白く思うんじゃないかなと。だからベーグル作り、喜んでくれるんじゃないかなあって思うのだけど。
どうかな?
***
日曜日、
ちいちゃんとスムーズに作れるように思い浮かぶままに書いておくけれど、まずは必要な道具。だいたいは台所にあるもので済んでしまうはず。
「ボウル、計量カップ、デジタルスケール、料理用の温度計、めん棒、へら、スケッパー(包丁でもいいと思う)、パン捏ね台(まな板でも)、フライパン、すくい網、オーブンシート、ミトン、鍋敷き」
こんなものかなあ。大丈夫、全部ありそう。ざいりょうはごくシンプル、小ぶりなベーグル4個分で、
「強力粉200グラム、砂糖(てんさい糖がおすすめです)10グラム(5%)、塩3グラム(1.5%)、インスタントドライイースト2グラム(1%)、水110グラム(55%)、ケトリング用砂糖(てんさい糖)20グラム程度」
そしてつくりかた、
その前に、まずパン作りでけっこうたいせつなのが温度。パン作りを始めたばかりの頃、ぼくはあんまり温度というものを意識していなかったからよく失敗をした。冬なのに仕込み水を冷蔵庫から出したばかりの水を使ったり、冷蔵庫から出してすぐのざいりょうを混ぜ込んだり。
なんでこれがダメかというと、捏ね上げたときの温度が下がってしまうから。パン生地は捏ねあがったときに28度くらいなのが理想で、そうでないと1次発酵、2次発酵でいくら温度をパン作りの本とかとおりに合わせてもうまく発酵してくれなかったりする。だから夏であれば逆に仕込み水は冷たくしないといけないし、ざいりょうも冷やしておかないといけない。
でもまあ、ぼくがちいちゃんと作る分にはあんまり気にしすぎることもないんだけれど(こまかく考えるなら仕込み水の適温を計算する計算式もある)、この季節であれば粉類は常温に、水は30度くらいにしておくのがいいかもしれない。
さて、
そんなことに注意しつつ、つくりかた。
①まずはボウルに砂糖以外の粉類を入れて軽く混ぜ、まん中にくぼみを作る。そこに砂糖と、水を1/4くらい入れてへらなどで砂糖をよく溶かす。砂糖が溶けたら、へらで周りの粉をくずすようにして混ぜていき、さらに少しずつ水をすべて加えていく。
②ある程度混ざりかたまりになったら、まずボウルの中で手で捏ねていく。ボウルをまわしながら、手の付け根っていうのかな、そこで押すような感じで捏ねる。
③なんとなくボウルや手にべたつかなくなってきたら、捏ね台の上に出して、さらに15~30分程度捏ねる。水分の少ない生地なので手前から奥にふたつにおるような感じで、やっぱり手の付け根で捏ねていく。それを少しずつずらしながら表面がきれいな感じになるまで捏ねる。
④捏ね終わったら、表面が張るように丸めて、それをスケッパーなどで4つに切り分ける。1個81グラムぐらい。
⑤切り分けた生地を、切断面を内側に丸め込むような感じで表面が張るように丸めてしっかりとじる。お皿の上などにとじ目を下にして並べ、乾燥しないようにラップをして10分程度ベンチタイム(そのまま放置)。
⑥ベンチタイム後、とじ目を上にして手で平らにして、さらにめん棒で10センチくらいの楕円形にしてから、それを三つ折りに。重なった部分を空気を抜くような感じで手の付け根でしっかりと押してから、さらに二つ折りにしてつなぎ目をしっかりととじ、なんていうかナマコ状にする。4個全部その状態にする。
⑦暑い時期以外はここでまたラップをかけて、5~10分くらいベンチタイムをとると成形がしやすいかもしれない。で、それから成形。手のひらで20センチくらいまで細長い棒状にして片方のはし、つなぎ目側をスプーン状にめん棒で平たくし、さらにつなぎ目を上にしたままぐるっとドーナッツ状にしてスプーン状の部分でもう片方のはしを包み、しっかりととじる(ここをしっかりとじておかないと焼成の最中に剥がれてきれいな焼き上がりにならない。餃子の皮みたくちょっと水をつけてもいいかも)。それを小麦粉を軽く振ったお皿の上などにつなぎ目を下にして並べふわっとラップをしてオーブンの発酵機能などを使って35度で20~30分程度発酵させる。見極めは難しいけれど、なんとなくひとまわり、おおーおっきくなったなあというのが目安でいいかなと。
⑧この間に天板を入れたオーブンを200度に余熱。フライパンに水を入れて沸騰させ、さらにてんさい糖をいれる。発酵が終わった生地をスケッパーなどを使ってやさしくお湯の中につなぎ目を上にして入れ30秒、すくい網で裏返してまた30秒茹でて、お湯を切りながらお皿の上に取り出す。
⑨ここからはできるだけ手早く。オーブンから天板を鍋敷きの上に取り出し、オーブンシートを敷いて、その上に茹で上がったベーグルを並べオーブンへ入れる。そして200度で15~20分程度焼成して完成。
***
うーん。
ぼくの以前作っていたときの記憶で書いてみたけれど、読み返してみると文字だけって非常に分かりにくい。それに記憶だから実際に作ってみると違っていたりもするかもしれない。
ぼくはちいちゃんにちゃんと説明できるかなあ? まあ、でもいまはすぐにつくりかたをいろいろ検索できるし。間違っていたらそこを参照してやり直そう。
それに、
ケトリング(茹でること)、焼成以外はこどもにもあんまり難しいこともないから、ちいちゃんにもちゃんとできるんじゃないかとも思っていて。多めに生地を用意して、ちいちゃんに好きなかたちにしてもらってもいいし、茹でずに焼いちゃってもいいし。
だから、
ちいちゃん。
日曜の朝にはパンを焼いて、いつもちょっと寝坊してくるママを驚かせてあげよう。きっと、楽しいにちがいないよね。
パパ、パンケーキを作って
春、
いくつも書きたいことはあったはずなのだけれど、なかなかうまく書くことができず気がつけばいつのまにか桜も終わり、葉桜のときに移ろうとしている。
ちいちゃんは無事始業式を終えて小学2年生になり、妻は今年はふれあい委員をするらしい。目まぐるしく世界は動いているのに、ぼくだけが変化に対応できない絶滅危惧種みたいに身動きがとれないでいるような、そんな気がしてならない。
ぼくは春が苦手だ。
というよりも季節の変わり目はいつも少しだけ不安定な気持ちになる。新しい季節に期待を膨らませるひとたちの明るさが、ほんとうは暗いぼくのこころを押しつぶすようなそんな気持ち。妻やちいちゃんに悟られないように押し殺すそんな気持ちがどろどろとこころの奥に溜まってこころもからだも不安定にするのかもしれない。
だからだろうか。ちょっと体調も崩し気味で、もうずいぶんと咳が止まらない。それとももっと単純にこの体調の悪さが気持ちを不安定にさせるのだろうか。
ともかく少し仕事の落ち着いた先週、呼吸器科に行くと気管支炎。もうちょっとほっておいたら肺炎だよ、と言われてしまった。4、5年前に短い期間に2度肺炎になったのだけれど、そのときとおんなじ。大丈夫、大丈夫と無理をしているあいだに限界を超えてしまう。まあ、今回は限界まではいかなかったけど。
なのでもう1週間、薬を飲み続けているわけだけど、いつもこの手の薬は身体に合わなくて咳は治まってくるのだけれどなんだか体調は良くない感じ。食欲はなくなるし、お腹の調子も良くない。
と、
こんなふうにときどき気持ちが暗くなってしまうのはぼくの悪い癖でいかんともしがたく、かといってちいちゃんにまでそんな姿は見せられないから元気なふりをするわけだけれど、ちょっとばれちゃっていたかもしれない。
情けないな。
でも、仕方ない。こればかりは。ひとってそんなに簡単に自分を変えられないし、それが言い訳だってことは自分がいちばん分かっているからまあまだ救いがある気もする。ちょっとずつちょっとずつ変わっていけたならいい。
土曜日、
久しぶりに土日がまるまるおやすみで、でもぼくは寝坊してしまった。休日もぼくはたいてい6時には起きて朝の準備をするのだけれど、その日は目が覚めるともう6時45分。
うーん。
と、ぼくは悩んでしまった。すぐに起きて準備をするか。たまには朝寝坊をしてしまうか。でも、そんなことを考えている間にちいちゃんがぼくの上に飛び乗ってきた。
「ねえ、パパ」と、ちいちゃんは言った。「今日はパンケーキ作って」
そうだ。
ここのところ忙しくておやすみの日にパンケーキを作ってなかったな。オーケーとぼくは言った。
「今日は一緒にパンケーキを作ろう」
ぼくひとりだったなら、きっとぐずぐずと暗い気持ちを引きずったままに違いなかった時間もちいちゃんのおかげで前向きになれる。
まだまだほんとのところ体調も気持ちも万全じゃないけれど、不思議とぜんぜん平気な気がしてくる。いつのまにかちいちゃんと楽しくごっこ遊びなんかしてるんじゃないかってそんな気がする。
もう少し、
時間が立てばきっと体調も良くなって、そしたらみんなでどこか遠くへおでかけしよう。どこかに忘れてきちゃった春を、取り戻しにいこう。
春になったら
修了式の次の日は約束通り、ディズニーシーへ。
春休み。
1年間がんばったちいちゃんに何かをしてあげたいなあとはなんとはなしにずっと思っていたのだけれど、去年、春にディズニーランド、秋にディズニーシーとそれぞれ初めて行ったちいちゃんは夢の国がとても楽しかったみたいで、「また行きたいな」とよく言っていたから、まあありきたりなのだけれど家族でディズニーへ行こうということに。
で、
「ランドとシー、どっちに行きたい?」と聞くと、「うーん・・・」と頭を抱えちゃったちいちゃんでしたが、ずいぶんと真剣に考えた末、「シー」と答えた。
「だってさ」と、ちいちゃんは言った。「ランドはその次、また行けばいいもんね」
ん、
そんなに頻繁に行くことが決まっちゃったわけ?
まあ、
大人も夢の国は楽しいからいいのだけれど。
***
今回、ちいちゃんが行きたかったのはまず「トイ・ストーリー・マニア!」。前回も行きたかったのだけれど、大混雑で断念したところ。
けど、
大人気のアトラクションは今回も、入場してすぐにファスト・パスは発行終了。普通に待ったら170分待ち! 今回も残念ながら、断念することに。
で、
次にちいちゃんが行きたいと言ったのはなんと、「タワー・オブ・テラー」。ほんとうに大丈夫? とぼくが聞くと、なに言ってるの、大丈夫だよ。私、こういうの大好きなんだから、とのこと。
というわけで、タワー・オブ・テラーに行くことは決まったのだけれど、これも大人気みたいでファスト・パスを使用して入れるのは2時間後。さて、この空き時間にどうするか?
ぼくの提案はアラジンとかアリエルとか、その手の場所でゆっくり過ごしたいなというところだったのだけれど、ちいちゃんの向かった先は「ニモ&フレンズ・シーライダー」。
楽しそうなんだけどね。けど案の定、ここも混雑しているわけで、でもまあここはまだ90分待ちということだからここに並ぶことに。
さて、
並んでいるあいだは当然のことながらちいちゃんは退屈。だんだんと耐えられなくなってきて、なのであの手この手で退屈しのぎをするわけだけど、これがけっこうたいへん。
「ねえ、パパ」と、ちいちゃんは言った。「なんかおもしろいことやって」
ん。
そんなむちゃぶりされても困ってしまう。残念だけどぼくはお笑い芸人じゃなし、こんなところで退屈をしのげるおもしろいことなんてなかなかできない。
「それじゃさ」と、ちょっと考えてぼくは言った。「なんか物語を考えよう」
「どんな物語?」
「たとえばさ」と、ぼくはディズニーシーのまん中にある火山を指さして言った。「あの山が本物だったらどうする?」
「でもさ」と、ちいちゃん。「にせもののお山でしょ」
「でもさ」と、ぼくは言う。「にせものお山のなかでさ、なんか悪いヤツがほんものの火山にしちゃったらどうする?」
「どんな悪いヤツ?」
「ん、ぼくらベアベアーズとか?」
「ぜんぜん怖くないじゃん」
「いや、だからさ。ベアベアーズがさ、誰かに操られちゃってるとか?」
「誰かって、誰?」
「ん」と、ぼく。突込みがなんだかいつもより激しい。「ほら、ぬらりひょんとか?」
「それもあんまり怖くないじゃん」と、ちょっと呆れ顔のちいちゃん。「ていうか、あんまりつながりがないし」
「そう?」と、ぼく。ちょっと風向きが怪しくなってきた。というか最初から風向きは怪しいのだけれど。「ほら、シロクマがクロクマになっちゃったら怖くない?」
「んー?」
「あ、そうだ」と、ぼくは急いで続ける。「あれにしよう。マレフィセントとか」
「なんで?」
「ん」と、ぼく。「ほら、あれだよ。ディズニーのお客さんを人質にしてさ、ディズニー国をつくるんだよ」
「ディズニー国?」
「そうさ、ここに独立国家をつくっちゃうのさ」
「どういうこと?」
「ん、まあそれはそれとしてさ。そんなピンチに助けに来たのは誰だと思う?」
「んー」と、ちょっと考えるちいちゃん。「プリキュア!」
「だと思うでしょ」と、なぜか得意げなぼく。そして低く渋い声でぼくは言いました。「助けに来たのは、バットマンさ」
「ねえ、パパ」と、ここでママが言った。「ちゃんと考えて話さないと、嫌われちゃうよ」
はい。
ごめんなさい。というかもう少し早く助け船を出して欲しかったな。
というわけで、退屈しのぎはスマホでプリキュアのゲームということになりました。最初からこっちにしとけばよかったね。
そして、
なんだかんだと2時間近く待ってニモ&フレンズ・シーライダー。けっこうしっかりシートベルトをしてくださいなんて言うものだから、ちょっドキドキしちゃってたけどそんな怖いことはぜんぜんなく、ニモの美しいうみの世界に連れて行ってくれた。
けど、2時間待ってほんの数分で終わっちゃうって。ほんと、とても素敵だったわけだけど。
で、
タワー・オブ・テラー。なんとなくおわかりになるんじゃないかと思うけれど、ぼくはこういうのがとても苦手。
なので、かなりドキドキ。楽しみでしょうがないちいちゃんは早足で向かうくらいの勢いだったけど、さすがにシートに着くとドキドキみたいでぼくの手をぎゅっと握る。
そして。
いちばん悲鳴を上げたのはママ。ちいちゃんはぼくの手を強く握りしめていたからきっと怖かったんだろうけど、でも終わった後は楽しそうにまた乗りたいねって言っていた。すごいね。
でもぼくはちょっと、遠慮しとこうかな。
午前中はこんなところで、昼食。今回はリーズナブルなオフィシャルホテルに泊まることにしていたので昼食はチェックインがてらホテルのバイキング。
といってもパーク内でポップコーンだのアイスだのちょこちょこと食べていたからそんなにみんな食べられなかったけれど。
で、
ホテルでなんだかんだとずいぶんゆっくりしてしまったけれど、昼食後はマーメイドラグーンでまたジャンピン・ジェリーフィッシュ(前回、ちいちゃんと乗って絵にも描いてくれたやつでなんとくらげに乗るんじゃなくて貝がらに乗ってくらげが持ち上げてくれるのでした)に乗ったり、ブローフィッシュ・バルーンレースに乗ったり。
アラビアンコーストでキャラバンカルーセルやジャスミンのフライングカーペットに乗ったり、シンドバットの世界に迷い込んだり、もうほとんど並ぶこともなく快適に過ごした。
そして夜も更けて、ちいちゃんのお気に入りの魔法使いの弟子になったミッキーマウスが繰り広げるナイトショーを見て、、、。
「あっというまだね」と、ショーを見ながらちいちゃんは言った。「楽しい一日がもう終わっちゃう」
「そうだね」と、ぼくは言った。「でもさ、こういうなんか淋しくて胸がきゅっとなるよな感じってさ、なんかよくない?」
「そうかなあ?」と、ママ。「わたしは切なくてやだけどな。ちいちゃんは?」
「んー」と、ちいちゃん。「よく分かんない」
「そっか、そうだよね」と、ぼくは笑った。「それじゃさ、とにかくまたみんなで来ようね」
「うん」と言って、ちいちゃんは笑った。
ねえ、
ちいちゃん。
きっと、ちいちゃんがいなかったならぼくたち夫婦はこんなに頻繁にはディズニーに来たりはしなかったと思う。ディズニーに限らず、ちいちゃんのおかげで広がった世界がいっぱいあるんだ。
春になったら、
ちいちゃんは小学2年生。また新しい階段を上るけれど、それはぼくたちも一緒なんだよ。またみんなで、素敵な景色が見られたならいいね。
修了式の次の日は
ちいちゃんは今日、1年生の修了式。
こどもの成長というのは親が思うよりも早いものだから、それも見込んで今日という日を想像していたけれど、それでもそんな想像を超えるくらいの成長を見せてくれるんだなあと昨日は思ったりした。
家に帰るとちいちゃんは玄関まで迎えに来てくれて、「行くよー」といつものように大きな声で言った。帰宅時の儀式みたいなもので、玄関でまだ靴も脱いでいないぼく目がけて助走をつけて思い切り飛びついてくる。
毎日のことだからあまり気にもしていなかったけど、でも改めて抱き上げるととても重くなったんだなと不意に気づいてびっくりした。ぼくはこんなふうにしていろいろなことを見逃していくのかもしれない。
でも気持ちというのは不思議なもので、というか適当なもので今日のそれは思ったよりも痛みみたいな感じはなかった。そうか、これが当たり前なんだなって、そんなことを思っただけ。こどもが当たり前のように成長していくというのはなんて尊く、ありがたいことなんだろう。
居間のテーブルの上にこの一年でちいちゃんが描いた絵が何枚も無造作に置かれていて、着替えに行くのも忘れてそれをじっくりと眺める。ぼくはぜんぜん知らない世界でひとりちいちゃんががんばった成果。ぼくはほんとうになにもできなかったけど、ちいちゃんは一年間をしっかりと駆け抜けたんだね。
「すごく、がんばったんだね」とぼくが言うと、ぜんぜんとちいちゃんは答えた。
「みんなやってるんだよ」
「そうか」と、ぼくは言った。「それじゃみんなすごくがんばったんだね」
「そうなの?」
「そうだと思うよ」と、僕は言った。みんなと同じであることがいつだっていいことだとは限らないけれど、みんなといっしょに何かを築き上げることができることもそれはとてもすごいことだと思う。みんな一緒に一年間を駆け抜けたのだ。ところでさ、とぼくは続けた。
「これは辻堂の公園に行ったときの絵かな?」
「違うよー」と、ちいちゃん。「それはアリエルだよ」
「ん?」ぼくにはどうも、辻堂にある公園の空中自転車の絵みたく見えてしまうのだけれど。「アリエル?」
「クラゲに乗って上がったり下がったりするのに乗ったでしょう」
「うん」と、ぼく。思い出した。去年、ディズニーシーに行ったときに乗ったアトラクション。「あれだ、クラゲのヤツだね。たしかにあれ、面白かったもんね」
「それでね」と、ちいちゃん。「これがママとわたし。パパはね、ちょっと失敗しちゃったんだけど、これ」
「うわ」と、ぼく。指さされたところを見ると、なんだか奇妙な人影がいる。「なんかこれ、幽霊みたいじゃない」
「でしょ」と、にこにこ笑うちいちゃん。「先生にもね、おんなじこと言われたの。パパ、かわいそうじゃんって。でもね、パパはやさしいから大丈夫って答えたの」
「うーん」と、ぼく。「それは褒めてくれてる?」
「うん」と、ちいちゃんは笑った。
ねえ、
ちいちゃん。
今日はどんな気持ち?
卒業でもなし、そんな感慨もないかもしれないけれど、でもぼくはすごく感慨深い。自分では気づいてないかもしれないけれど、ちいちゃんは身体もこころもとてもとても大きくなったから。その変化を、きっと見逃してしまったこともたくさんあったかもしれないけれど、ちいちゃんのすぐそばで見つめることができたから。
修了式の次の日は、新しい季節の前のひとやすみ。ずっと前から約束していたディズニーに行こう。
楽しい思い出がたくさんできるといいね。
夏になったらアイスをつくろう
日曜日、ここのところなんだかんだと休日も仕事が続いているぼくが帰るとちいちゃんはかけよってきて言った。
「パパにはこれだよ」
そしてちいちゃんが渡してくれたのは、「ルルとララのアイスクリーム」という児童書。ルルとララのおかしやさんシリーズは、ちいちゃんが小学生になって出会った児童書で、かえでの森にかこまれたメープル通りで小学生のルルとララが営む小さなおかしやさんには森の動物たちが訪れて、、、という物語。
やさしく動物たちに寄り添うその物語と、とてもかわいらしい装丁のその本をちいちゃんはとても気に入っているし、ぼくはぼくでこどもでも作りやすいようにかわいらしく、分かりやすく描かれたレシピがとても好きで、そんなお菓子をちいちゃんと作ることをとても楽しみにしているのです。
だからかな、組合のイベントのお手伝いで日曜日も出勤となったぼくがいない間、ばあばの家からの帰り、図書館でひととき過ごしたちいちゃんは、自分の読みたい本だけじゃなくてぼくの分まで借りてきてくれたわけです。
「だって」と、ちいちゃんは言いました。「パパって、お菓子作りが大好きでしょう。だからね、借りてきたんだよ。今度、一緒に作ろうね」
組合のイベントは市民ふれあいマーケットというフリーマーケットの一角で行う古本販売で、ぼくは売り場の設営と販売のお手伝いをした。こういうイベントは普段は事務所内で黙々と仕事をするぼくにとっては組合員や市民のかたとそれこそふれあえる貴重な機会だし、実際楽しいのだけれど、でもやっぱりせっかくの休みにちいちゃんと過ごせないのは淋しくもあるわけで。
だから、
ちいちゃん。
ちいちゃんが一緒にいないぼくのために本を選んでくれたことが、ぼくはとてもとてもうれしかったんだよ。そんなふうに一緒にいない誰かのことを思いやってあげられるこころやさしいちいちゃんがパパはいつでも大好きだよ。
***
さて、
ちいちゃんが選んでくれた「ルルとララのアイスクリーム」は、とてもこころあたたまる、やさしい物語でした。
ここのところ普段も帰りの遅い日が多くなっていて、そうするといままでのように夕食後に食器類の洗い物をして、妻がお風呂に入っているあいだごっこ遊びをして、そして一緒にお風呂に入って、寝室へ。
という流れだと、ちいちゃんの寝る時間がかなり遅くなってしまう。なので、そんな日は洗い物は後回しにしてちいちゃんを先に寝かしつけてから、洗い物をするわけなのですが、洗い物が終わったころにはなんだか目が冴えちゃって眠れなくなってしまったりするのです。
で、
そんな夜はぼくの密かな読書タイム。
といっても、それなりにいい年なのであんまり無理もできないから、読むのはだいたいちいちゃんが借りてきた本。ある程度の時間になったら目が冴えていようがいまいが無理やり寝ます。だって、身体は正直でもうちょっと若い頃みたいにはすぐに疲れは抜けなかったりするのです。
はい。
それで、
「ルルとララのアイスクリーム」はそんな夜に読み終わりました。
それはとても暑い夏の日、小学生のルルとララには重たい材料運びを手伝ってくれたアライグマに大好きなクッキーでお礼をしようとすると、
「これはぼくからのお礼なんだ」と、アライグマは言いました。だからお礼は受け取れないと。そして見せてくれたのは「お礼リレー」の手紙。それは自分へのお礼は私じゃない誰かに受け取ってもらってください、という内容の手紙だったのです。
そんな手紙を読んでルルとララはとてもうれしくなります。そして実はその手紙の始まりはルルとララにお菓子作りを教えてくれるおとなりのパン屋さん、シュガーおばさんで、ルルとララは森のみんなと、そしてシュガーおばさんにお菓子のお礼をしたいと考えました。
でも、暑い夏のこと、夏バテ気味の森の動物たちはあんまり食欲がありません。そこでシュガーおばさんが教えてくれたのが、アイスクリーム。そしてあまりの暑さにゆきだるまにかじりつきたいくらい、なんて言うシュガーおばさんに、ルルとララはとても素敵なお礼をするのです。
自分じゃない誰かへのやさしさが、巡りめぐって自分に帰ってくるというのはありふれたストーリーかもしれないけれど、それがとても自然に、決して押しつけることなく描かれていてうれしくなる。
ねえ、
ちいちゃん。
きっと押しつけがましいやさしさや、強制的なやさしさなんかいらないんだね。
ちいちゃんがぼくにも本を借りてきてくれたようなやさしさこそ、きっとたいせつなんだと思う。だから、ぼくはこんなにうれしくて、そんなちいちゃんからとてもたいせつなことを学んだ気がするし、そんなやさしいちいちゃんを誰よりも誇りに思うんだよ。
素敵な本を借りてきてくれてありがとう。パパのこと、思い出してくれてありがとう。
***
恥ずかしながら、ぼくはこの本でアイスクリームの作り方を初めて知った。なんだか勝手に難しく思っていたけど、けっこう簡単。
材料は生クリーム100グラム、牛乳200グラム、卵の黄身2個、砂糖(グラニュー糖)45グラム、バニラエッセンス少量。
作り方はまず生クリームをつのが立つくらいまで泡立て、冷蔵庫で冷やしておく。
ボウルに卵の黄身と砂糖を加えて白っぽくなるまで混ぜ、そこに電子レンジで2分30秒ほど温めた牛乳を加えて砂糖がとけるまで混ぜる。
それを電子レンジでさらに2分温めてあみで濾し、氷水で冷やしながら2~3分ほど泡立て、冷やしておいた生クリーム、バニラエッセンスを少量加えてなめらかになるまで混ぜる。これをタッパーやカップに入れて冷凍庫で4~5時間冷やしたら完成。
簡単でしょ。
だからさ、
ちいちゃん。
まだちょっと、アイスって時期じゃないけれど、夏になったらアイスをつくろう! ちいちゃんのやさしさのいっぱいつまったアイスクリームをたくさんつくろう。
小さな生き物
先週末は天気が良かったし、年明けから長く続いたちいちゃんと妻の体調不良も回復してきたしということで、どこか外におでかけに行きたいなあと考えていたのだけど、
「松田山あたりに河津桜を見に行かない?」と、ぼくが聞くと、「カワヅザクラってなに?」と、ちいちゃん。
「そうだなあ。幼稚園とか小学校で咲いてたさくらは分かるでしょ」
「うん」
「うん、そのいつものさくらよりちょっと早く咲くさくらのこと」
「じゃあ、学校に咲いてるようなさくらを見に行くの?」
「うん。正確に言うとちょっと違うんだけど、もっとたくさん咲いているしね。けど、まあ、そんなものかな。なんかイベントもやっているみたいだよ」
「そっかあ」と、ちいちゃん。「楽しそうだけど、わたし、花粉症だから行きたくないな」
「そっか」と、ぼく。「じゃあ、平塚あたりにイチゴ狩りとかは、どう?」
「やっぱり、わたし花粉症だからお外には行きたくないの」
なるほど。
花粉症で鼻はぐしゅぐしゅ、目はしょぼしょぼ、目と鼻のまわりはこすりすぎで腫れちゃってるちいちゃんは外にはできるだけ行きたくないみたい。
はい。
それって、ぼくのせいかもしれないです。
ぼくは昔からアレルギー体質で、スギの花粉症は特にひどい。ぼくがそうなんだから娘のちいちゃんだって花粉症なのも仕方がないのかもしれない。たしかに最近のちいちゃんは目も鼻もとてもつらそうで。けれど、お医者さんは行きたくないっていうし、とりあえず薬局で子供用の抗アレルギー目薬があったからそれでしのいでおくしかないのかな。
そんなわけで、
土曜日はお外はあきらめて、ひさしぶりにカラオケへ。そして日曜日には映画を観に行くことになりました。
カラオケをしているとき、公開したばかりのドラえもんの映画の宣伝が何度も流れていて、それを見ていたちいちゃんは星野源さんの主題歌を歌い出しました。
どどどどどどどどどど、ドラえもん・・・。
はじめて聴いた歌をめちゃくちゃな音程で家族で熱唱。ほんと、ひとさまには見せられないなあ。でも、はじめてでもなんでも耳に残る素敵な歌を作る星野源さんってすごいひとだ。「ドラえもん」ってタイトルをつけちゃうっていうのもすごいことだと思うし。
で、
映画も観たくなっちゃったちいちゃんは、「ねえ、パパ」と言ったわけです。
「明日はさ、ドラえもんを観に行こうよ」
ということで観に行ったのが、3日に公開したばかりの「映画 ドラえもん のび太の宝島」。
スティーヴンソンの小説「宝島」のストーリーを知ったのび太くんは冒険の旅に出たくなります。そしてドラえもんが出してくれたひみつ道具が「宝探し地図」。宝探し地図が示した場所は太平洋上の謎の島で、のび太くんたちはそんな謎の島を目指して冒険の旅に出るわけです。
もちろんぼくもこどもの頃ドラえもんを観ていたし、とても好きでした。なにせぼくはこどもの頃からのび太くんと呼ばれていたくらいだし。
でも、それってあんまりいい意味じゃなくて、メガネでひょろひょろしていて、弱虫で泣き虫でみたいな感じででしたけど。
そんなのび太くんが今回はとてもかっこいい。まあ、もちろん基本ダメな子なんですけど、でもたいせつなことを感覚として知っているというか。
だいすきな子を守りたい、助けたい。
そのためにちいさなその手を伸ばせるってことはとても尊いことだと思う。ぼくにはその手を伸ばせただろうか。助けに行けただろうか。
大人の思考で観てしまうと、そんなに単純じゃないよなとか、結局なんにも解決してないよなあとか、素直に物語に入り込めないこともあるかもしれないけれど、親として、夫として、家族としてのぼくはとても感動してしまった。恥ずかしながら、泣いてしまったな。
妻をたいせつにしたいって改めて思ったし、ちいちゃんをひとりにはしたくないって強く思った。誰が欠けても、ぼくたちはもうこれまでのぼくたちじゃなくなっちゃうのだから。
まあ、
そんなことあれやこれやと考えなくともとにかく単純に面白かった。ちいちゃんもわくわくドキドキ、観ていたんじゃないかなと思う。だって横に座ったちいちゃんは笑ったり、真面目な顔になったり、目まぐるしく表情を変えていたから。
「ぼくが助けなきゃ」
故障してしまったドラえもんにのび太くんが勇気を振り絞って言ったことばはとてもかっこよかった。でもそんなふうに言える相手がいることこそ何よりも尊いことかもしれない。
できるなら、
いつかちいちゃんにもそんな友人ができたならいいなと思う。ぼくはこどもの頃からずっととても弱いひとで、守りたいと思えるようなひとに出会えるなんて思いもしなかった。
たぶん、根元の部分にあるそれはいまも変わらない。弱虫で、泣き虫で、臆病で、自分のことをネガティブに表現することならいくらでもできる気がする。
でも、
幸いなことにぼくは守りたいひとたちに巡り合えた。ちいちゃんや妻の為なら、ぼくはのび太くんとおんなじことばを言うことができる気がする。
この年になってさ、
やっとかもしれないけれど。
ん、
「ほんと?」
って、妻には言われちゃいそうだな。けど、たぶん。それはほんとだよ。