修了式の次の日は
ちいちゃんは今日、1年生の修了式。
こどもの成長というのは親が思うよりも早いものだから、それも見込んで今日という日を想像していたけれど、それでもそんな想像を超えるくらいの成長を見せてくれるんだなあと昨日は思ったりした。
家に帰るとちいちゃんは玄関まで迎えに来てくれて、「行くよー」といつものように大きな声で言った。帰宅時の儀式みたいなもので、玄関でまだ靴も脱いでいないぼく目がけて助走をつけて思い切り飛びついてくる。
毎日のことだからあまり気にもしていなかったけど、でも改めて抱き上げるととても重くなったんだなと不意に気づいてびっくりした。ぼくはこんなふうにしていろいろなことを見逃していくのかもしれない。
でも気持ちというのは不思議なもので、というか適当なもので今日のそれは思ったよりも痛みみたいな感じはなかった。そうか、これが当たり前なんだなって、そんなことを思っただけ。こどもが当たり前のように成長していくというのはなんて尊く、ありがたいことなんだろう。
居間のテーブルの上にこの一年でちいちゃんが描いた絵が何枚も無造作に置かれていて、着替えに行くのも忘れてそれをじっくりと眺める。ぼくはぜんぜん知らない世界でひとりちいちゃんががんばった成果。ぼくはほんとうになにもできなかったけど、ちいちゃんは一年間をしっかりと駆け抜けたんだね。
「すごく、がんばったんだね」とぼくが言うと、ぜんぜんとちいちゃんは答えた。
「みんなやってるんだよ」
「そうか」と、ぼくは言った。「それじゃみんなすごくがんばったんだね」
「そうなの?」
「そうだと思うよ」と、僕は言った。みんなと同じであることがいつだっていいことだとは限らないけれど、みんなといっしょに何かを築き上げることができることもそれはとてもすごいことだと思う。みんな一緒に一年間を駆け抜けたのだ。ところでさ、とぼくは続けた。
「これは辻堂の公園に行ったときの絵かな?」
「違うよー」と、ちいちゃん。「それはアリエルだよ」
「ん?」ぼくにはどうも、辻堂にある公園の空中自転車の絵みたく見えてしまうのだけれど。「アリエル?」
「クラゲに乗って上がったり下がったりするのに乗ったでしょう」
「うん」と、ぼく。思い出した。去年、ディズニーシーに行ったときに乗ったアトラクション。「あれだ、クラゲのヤツだね。たしかにあれ、面白かったもんね」
「それでね」と、ちいちゃん。「これがママとわたし。パパはね、ちょっと失敗しちゃったんだけど、これ」
「うわ」と、ぼく。指さされたところを見ると、なんだか奇妙な人影がいる。「なんかこれ、幽霊みたいじゃない」
「でしょ」と、にこにこ笑うちいちゃん。「先生にもね、おんなじこと言われたの。パパ、かわいそうじゃんって。でもね、パパはやさしいから大丈夫って答えたの」
「うーん」と、ぼく。「それは褒めてくれてる?」
「うん」と、ちいちゃんは笑った。
ねえ、
ちいちゃん。
今日はどんな気持ち?
卒業でもなし、そんな感慨もないかもしれないけれど、でもぼくはすごく感慨深い。自分では気づいてないかもしれないけれど、ちいちゃんは身体もこころもとてもとても大きくなったから。その変化を、きっと見逃してしまったこともたくさんあったかもしれないけれど、ちいちゃんのすぐそばで見つめることができたから。
修了式の次の日は、新しい季節の前のひとやすみ。ずっと前から約束していたディズニーに行こう。
楽しい思い出がたくさんできるといいね。