春になったら
修了式の次の日は約束通り、ディズニーシーへ。
春休み。
1年間がんばったちいちゃんに何かをしてあげたいなあとはなんとはなしにずっと思っていたのだけれど、去年、春にディズニーランド、秋にディズニーシーとそれぞれ初めて行ったちいちゃんは夢の国がとても楽しかったみたいで、「また行きたいな」とよく言っていたから、まあありきたりなのだけれど家族でディズニーへ行こうということに。
で、
「ランドとシー、どっちに行きたい?」と聞くと、「うーん・・・」と頭を抱えちゃったちいちゃんでしたが、ずいぶんと真剣に考えた末、「シー」と答えた。
「だってさ」と、ちいちゃんは言った。「ランドはその次、また行けばいいもんね」
ん、
そんなに頻繁に行くことが決まっちゃったわけ?
まあ、
大人も夢の国は楽しいからいいのだけれど。
***
今回、ちいちゃんが行きたかったのはまず「トイ・ストーリー・マニア!」。前回も行きたかったのだけれど、大混雑で断念したところ。
けど、
大人気のアトラクションは今回も、入場してすぐにファスト・パスは発行終了。普通に待ったら170分待ち! 今回も残念ながら、断念することに。
で、
次にちいちゃんが行きたいと言ったのはなんと、「タワー・オブ・テラー」。ほんとうに大丈夫? とぼくが聞くと、なに言ってるの、大丈夫だよ。私、こういうの大好きなんだから、とのこと。
というわけで、タワー・オブ・テラーに行くことは決まったのだけれど、これも大人気みたいでファスト・パスを使用して入れるのは2時間後。さて、この空き時間にどうするか?
ぼくの提案はアラジンとかアリエルとか、その手の場所でゆっくり過ごしたいなというところだったのだけれど、ちいちゃんの向かった先は「ニモ&フレンズ・シーライダー」。
楽しそうなんだけどね。けど案の定、ここも混雑しているわけで、でもまあここはまだ90分待ちということだからここに並ぶことに。
さて、
並んでいるあいだは当然のことながらちいちゃんは退屈。だんだんと耐えられなくなってきて、なのであの手この手で退屈しのぎをするわけだけど、これがけっこうたいへん。
「ねえ、パパ」と、ちいちゃんは言った。「なんかおもしろいことやって」
ん。
そんなむちゃぶりされても困ってしまう。残念だけどぼくはお笑い芸人じゃなし、こんなところで退屈をしのげるおもしろいことなんてなかなかできない。
「それじゃさ」と、ちょっと考えてぼくは言った。「なんか物語を考えよう」
「どんな物語?」
「たとえばさ」と、ぼくはディズニーシーのまん中にある火山を指さして言った。「あの山が本物だったらどうする?」
「でもさ」と、ちいちゃん。「にせもののお山でしょ」
「でもさ」と、ぼくは言う。「にせものお山のなかでさ、なんか悪いヤツがほんものの火山にしちゃったらどうする?」
「どんな悪いヤツ?」
「ん、ぼくらベアベアーズとか?」
「ぜんぜん怖くないじゃん」
「いや、だからさ。ベアベアーズがさ、誰かに操られちゃってるとか?」
「誰かって、誰?」
「ん」と、ぼく。突込みがなんだかいつもより激しい。「ほら、ぬらりひょんとか?」
「それもあんまり怖くないじゃん」と、ちょっと呆れ顔のちいちゃん。「ていうか、あんまりつながりがないし」
「そう?」と、ぼく。ちょっと風向きが怪しくなってきた。というか最初から風向きは怪しいのだけれど。「ほら、シロクマがクロクマになっちゃったら怖くない?」
「んー?」
「あ、そうだ」と、ぼくは急いで続ける。「あれにしよう。マレフィセントとか」
「なんで?」
「ん」と、ぼく。「ほら、あれだよ。ディズニーのお客さんを人質にしてさ、ディズニー国をつくるんだよ」
「ディズニー国?」
「そうさ、ここに独立国家をつくっちゃうのさ」
「どういうこと?」
「ん、まあそれはそれとしてさ。そんなピンチに助けに来たのは誰だと思う?」
「んー」と、ちょっと考えるちいちゃん。「プリキュア!」
「だと思うでしょ」と、なぜか得意げなぼく。そして低く渋い声でぼくは言いました。「助けに来たのは、バットマンさ」
「ねえ、パパ」と、ここでママが言った。「ちゃんと考えて話さないと、嫌われちゃうよ」
はい。
ごめんなさい。というかもう少し早く助け船を出して欲しかったな。
というわけで、退屈しのぎはスマホでプリキュアのゲームということになりました。最初からこっちにしとけばよかったね。
そして、
なんだかんだと2時間近く待ってニモ&フレンズ・シーライダー。けっこうしっかりシートベルトをしてくださいなんて言うものだから、ちょっドキドキしちゃってたけどそんな怖いことはぜんぜんなく、ニモの美しいうみの世界に連れて行ってくれた。
けど、2時間待ってほんの数分で終わっちゃうって。ほんと、とても素敵だったわけだけど。
で、
タワー・オブ・テラー。なんとなくおわかりになるんじゃないかと思うけれど、ぼくはこういうのがとても苦手。
なので、かなりドキドキ。楽しみでしょうがないちいちゃんは早足で向かうくらいの勢いだったけど、さすがにシートに着くとドキドキみたいでぼくの手をぎゅっと握る。
そして。
いちばん悲鳴を上げたのはママ。ちいちゃんはぼくの手を強く握りしめていたからきっと怖かったんだろうけど、でも終わった後は楽しそうにまた乗りたいねって言っていた。すごいね。
でもぼくはちょっと、遠慮しとこうかな。
午前中はこんなところで、昼食。今回はリーズナブルなオフィシャルホテルに泊まることにしていたので昼食はチェックインがてらホテルのバイキング。
といってもパーク内でポップコーンだのアイスだのちょこちょこと食べていたからそんなにみんな食べられなかったけれど。
で、
ホテルでなんだかんだとずいぶんゆっくりしてしまったけれど、昼食後はマーメイドラグーンでまたジャンピン・ジェリーフィッシュ(前回、ちいちゃんと乗って絵にも描いてくれたやつでなんとくらげに乗るんじゃなくて貝がらに乗ってくらげが持ち上げてくれるのでした)に乗ったり、ブローフィッシュ・バルーンレースに乗ったり。
アラビアンコーストでキャラバンカルーセルやジャスミンのフライングカーペットに乗ったり、シンドバットの世界に迷い込んだり、もうほとんど並ぶこともなく快適に過ごした。
そして夜も更けて、ちいちゃんのお気に入りの魔法使いの弟子になったミッキーマウスが繰り広げるナイトショーを見て、、、。
「あっというまだね」と、ショーを見ながらちいちゃんは言った。「楽しい一日がもう終わっちゃう」
「そうだね」と、ぼくは言った。「でもさ、こういうなんか淋しくて胸がきゅっとなるよな感じってさ、なんかよくない?」
「そうかなあ?」と、ママ。「わたしは切なくてやだけどな。ちいちゃんは?」
「んー」と、ちいちゃん。「よく分かんない」
「そっか、そうだよね」と、ぼくは笑った。「それじゃさ、とにかくまたみんなで来ようね」
「うん」と言って、ちいちゃんは笑った。
ねえ、
ちいちゃん。
きっと、ちいちゃんがいなかったならぼくたち夫婦はこんなに頻繁にはディズニーに来たりはしなかったと思う。ディズニーに限らず、ちいちゃんのおかげで広がった世界がいっぱいあるんだ。
春になったら、
ちいちゃんは小学2年生。また新しい階段を上るけれど、それはぼくたちも一緒なんだよ。またみんなで、素敵な景色が見られたならいいね。