キラキラ
ここのところずっと、小説を読んでいる。
といっても、普段の生活は変わることもないからそれまでスマートフォンを見て過ごしていた早朝のひとときや会社での昼休みを読書の時間にしたというだけなのだけれど。
だからそんなにたくさんの本を読んだというわけでもなくて、ただそれでもここ数ヶ月で数冊の本を読むことができた。
それで何かが変わるというわけではもちろんないけれど、ちょっとした心境の変化はあったりもする。代わり映えのしない時間を過ごしているとそんなつもりはなくても心は硬くこわばって感じることを止めてしまう。気付かずにいればそれはそれで何事もなく流れてしまうものだけど。
その本はとても素敵な本だった。といってもまだ半分くらいしか読み終えていないから、おそらく。
多分、そのひとの最初の小説を僕はずいぶんと昔に読んだことがある。僕の大好きな人が帯にコメントを書いていて、それに興味を惹かれて手に取ったのだ。でもその小説を僕は余り覚えていない。確か一日に一組だけお客を迎える食堂の話。
だからその後、僕がそのひとの本を読むことはなかったのだけれど、なんとなく静かで背筋のピンと伸びるような小説が読みたいと思っていたところに、その文庫本のやさしげなそれでいてどこか凛とした装丁を見つけて自然と手が伸びた。
それがそのひとの小説だというのは、後で気が付いた。
キラキラ
それはバーバラ婦人が教えてくれた秘密のおまじない。「心の中で、キラキラ、って言うの。目を閉じて、キラキラ、キラキラ、ってそれだけでいいの。そうするとね、心の暗闇にどんどん星が増えて、きれいな星空が広がるの」
読み終えてしまうのが淋しいなんて思うのは久しぶりで、でももちろん早く先が読みたい。NHKでドラマ化されていたということも後で知ったことだけれど、どこか世捨て人めいた生活を送っている僕はもちろん結末を知らないからいま読書の幸せを楽しんでいる。
目を閉じて、キラキラと呟いてみる。キラキラ、キラキラ、呟くたび暗闇に星空が広がって不思議と心の中の不安が消えていく。
そうか、
けっこう不安だったんだな。といってそれは別に特別なことではなくてきっとみんな多かれ少なかれ不安を抱えている。
別に小説を読んでいなくとも、それはいずれ気付くことだったかもしれないけれど、そんな小さな変化で心が軽くなることも確かにあるのだとそんなことをちょっと思った。