スティッチ
午前4時。
ここのところ4時半には起きて、朝の仕度をする。いつからか妻がときどき腕が痺れるというようになって、以来なるべく負担を減らすように洗濯物も干してから会社に行くようにしているから自然ちょっと早く起きるようになった。
病院に通っても妻の症状の原因は結局分からなくて、いまは頻繁に症状が出ているわけではないけれど、それが習慣になってしばらく経つ。
といってもちろん外に出して干しておくことはできないから、室内用の物干しに洗濯物を干しておいてあとは外に出すだけという状態にしておく。雨の日は除湿機をかけておく。
だからいつもより少し早く起きた今日は朝の支度を始めるまでまだ少し時間があって、なんとはなしに文章を書いている。そんな気分になったのは多分今日がちいちゃんの運動会だからだ。
運動会はほんとは先週の土曜日に行われるはずだったけれど、台風の影響で延期になって今日になった。土曜日ならパパでも観に行けた運動会も、平日となるとなかなかそうもいかない。そうもいかないこともないのかもしれないけれど、月初めに仕事を抜けるというのはそれなりに大変だったりもするわけで。結局ぼくは休みも外出も、届けは出さなかった。
「えー、嫌だよ」と、昨日一緒に入ったお風呂で運動会には行けないことを伝えると、ちいちゃんはそう言ってくれた。
「淋しいよ」
もう、
それだけでぼくは十分。もちろん、運動会でがんばるちいちゃんの姿を見ることができないことは淋しいけれど、でもちいちゃんも淋しいって言ってくれたから。
「ごめんね、ちいちゃん」と、ぼくは言った。「パパもさ、行けなくてすごく淋しいよ」
きっと、もっとしっかりしたパパならちゃんと時間を作って、平日だって運動会を観に行けるのだろう。でもぼくは仕事の量だけじゃなくからみついたいろいろなしがらみを断ち切れずに、ちいちゃんにごめんねと言うことしかできない。
「それじゃさ」と、ちいちゃんが言った。「明日、パパが帰ってきたらスティッチを踊るよ」
今年、ちいちゃんたちはみんなでスティッチの曲に合わせてダンスを踊る。もうずいぶんと前からちいちゃんは歌いながらダンスの練習をしていて、ぼくはそのキュートなダンスを観ることをとてもとても楽しみにしていた。
「前から思ってたけど」と、ぼくは言った。「ちいちゃんてさ、すごくやさしいよね」
「なにそれ」と、ちいちゃんは言った。「親バカ?」
「ちがうよ」と、ぼくは言った。「すごくさ、パパは幸せだなあって思ったってこと。それだけ」
あと1時間もすれば外も明るくなりだすだろうか。天気予報によれば今日は運動会日和らしい。ぼくは銀行に行かなければいけないから、外回りのあいだちょっと空を見上げて想像してみよう。
きっと想像のなかで一生懸命なちいちゃんの姿が見えるはずで、だからちょっと離れた場所からだけれど、ぼくも一生懸命応援しようかと思う。
「がんばれ」
って、心のなかで呟いてみよう。ちいちゃんの、素敵な思い出になるように空にそっとお願いしてみようと思う。