ちいちゃんのてがみ
だいすきなママへ
〇〇さいのおたんじょうびおめでとう。
気もちは17さい、ときどき7さいのママ。
ママって、おもしろいね。
だいすきだよ。
ちいちゃんより
***
妻の誕生日。
ぼくが用意した誕生日プレゼントは春っぽい水色のカーディガン。それと家族3人で着れるようにおそろいのディズニーのTシャツ3枚。
ぼくらしくないプレゼントだねえ、なんて言いながらも妻は思ったより喜んでくれたけど、ちいちゃんのてがみにはかなわない。
7さいになったばかりのちいちゃん。とても素敵な手紙を書くなあなんて思っちゃうのは親バカかな。
誕生日数日前から妻の、
「誕生日にはおてがみちょうだいね!」
攻撃がすごかったから、半ば強制的な感じもなきにしもあらずだけど、でも他意のないあたたかなてがみはぼくたちのこころをやわらかにしてくれる。
ねえ、
ちいちゃん。
知ってた?
ちいちゃんのそんなてがみを読んで、パパもなんだかとてもうれしかったって。こころやさしいちいちゃんはぼくたちの誇りだよ。
とっても素敵なてがみをママに送ってくれてありがとう。まあ、見てたら分かると思うんだけど、ママはもっと、とてもとてもうれしかったと思うよ。
アリス
目覚まし時計の音で目が覚めた。
うわ、やってしまった!
目覚まし時計は6時にセットされていて、それは妻の起きる時間。普段、ぼくは自分の携帯のアラームで5時には起きるから、1時間の寝坊。でも、ふと横を見ると昨日妻のふとんのなかのもぐり込んだはずのちいちゃんがいて、なんだかちょっと、というかかなりうれしくなる。いつのまにかぼくのふとんのなかに来てくれたみたい。
が、
現実的にはあんまり余裕はないわけで。けど、まあ、今日は早出の日じゃないし、妻には悪いけれどのんびりと出発させてもらおう。
ごめんなさい。
ちなみに今日も朝食はセブンイレブンで購入。またメロンパンを買ってしまった。しかも今日はホイップクリーム入り。いけないと思いつつ、惣菜パンとか買う気にはなれないのですね。なんかおかずはおかずで、ごはんと一緒の方がいいよねみたいに思ってしまって。
わけわからんって、妻には笑われちゃうんだけど。
で、
コーヒーも買って、今日はこぼさなかったのだ!
***
ぼくはみんなが言うところによると、けっこう痩せているらしい。ん、かなり? でもけっこう食べる。まあ、甘いものだけど。件のメロンパンとかもそうだし、一番好きなのはドーナッツ。しかもオールドファッション。
なものだから、普段はお昼に自分で作ったそんな多くもないお弁当を食べてるぼくが、たまに菓子パンばっかり3個も食べてたりすると、けっこう食べるんだねなんて驚かれたりする。
まあ、
驚いてるのは菓子パンばっかりってとこかもしれないけど。これはもう高校生くらいからぶれないところ。甘いのばっかり。って、なんの自慢でしょうね?
で、
組合なんかでお付き合いのある社長さんなんかには、「ろれんぞくんは、胃下垂だよね」なんて言われたりして。でも、胃下垂ってどんなことなのかよく分からないのですが。要はやせの大食いってことなのかな? だとしたらまあ当たらずとも遠からずですね。
はい。
それで昨日。
お昼に家族でマクドナルドに行って、ちいちゃんがあんまり食べなかったので残ったものをぼくが食べたのだけど、こういうことってけっこうあって、普段からちいちゃんのも食べてるんだから胃下垂にもなるよねって妻に話したら、
「いや、胃下垂ってさ。そういうことじゃないと思うよ」
って、冷静に言われてしまった。
そうなの?
さて、
そんなことはさておき最近、誕生日を迎えたちいちゃん。一昨日はスタジオアリスに写真を撮りに行きました。ハッピーバースデイと七五三を兼ねまして。
4人兄弟の末っ子だったぼくにはあんまり幼い頃の写真というものが残っていない。結婚式のときにこどもの頃の写真を映像で映し出すというので探したらほんとない。しかも母から生まれたときの写真だよって言われてもらった写真は実は兄の写真だったという始末。
いや、まあ、笑い話ですけどね。笑い話ですけど、けっこう本気で哀しかったりもするわけです。
なので、
ちいちゃんにはたくさんの写真を残してあげたいなあとなんとなく思っていて、そんなに頻繁ではないけれど、時期ごとに我が家でもスタジオアリスに写真を撮りに行っているわけです。
みんなおんなじかもしれないけど、やっぱり思っている以上に記憶というのはあやふやだから写真というのは貴重だなあとぼくなんかは思ったりして。
とはいえ、
実はぼくはスタジオアリスがとても苦手。だって待ち時間ばかりがとても長いのです。一昨日も1時半からの予約で、終わったのは5時半過ぎ。誕生日と七五三の2種類の撮影だったからというのもあるけれど、それにしても長い。ちいちゃんも疲れちゃったよね。
で、
ここでいちばん機嫌が悪くなるのがママ。「こんなに待たせるなら、最初から時間をずらしてくれればいいのに」
ぼくにいろいろ言うわけです。なので、「いや、そんなのぼくのせいじゃないじゃん」と、ぼくが言うと、「だれもパパのせいだなんて言ってないでしょ」
はい。
たしかにそんなことは言ってませんでした。
でも、そんな妻も素敵なドレス姿と着物姿のちいちゃんを見てとても素敵な笑顔を見せていて、そんなふたりを見てぼくもとてもうれしくなった。
こんな笑顔を見られるなら、ちょっとぐらい待ってもいいかな。うん。でもできるならもうちょっと待ち時間を減らしてくれたなら、我が家ももうちょっとなごやかに写真を撮りに来ることができるのですが。よろしくお願いいたします。
ちいちゃんが選んだのは花が彩られたとてもかわいいというよりきれいな白いドレス。白いドレスに包まれたちいちゃんは緊張していてなかなか笑顔が出ません。写真を撮ってくれるのは若い女性で(そういえばここは昔から男性のカメラマンっていないな)、
「笑顔がかたいよー。パパの好きな食べ物は?」
なんてことを聞いたりします。
「コーヒー」と、ちいちゃん。あ、それ飲み物だから。案の定、
「うーん、それは飲み物だなあ。食べ物は?」
するとちいちゃん、「ドーナッツ!」
大きな声で言えたけど、ドーナッツってさ、こういう場で言われるとちょっとぼくは恥ずかしい。間違ってはいないのですが。
「そっかあ、パパはドーナッツが好きなのか。かわいいパパだね。わたしも食べていい」
「ダメ!」
と、ちいちゃん。
「そっか、わたしはダメかあ」
ちいちゃんは大笑い。ひとまわり以上若い女の子にかわいいって言われてしまったぼくは苦笑い。でもさすがだな、その後はなごやかに撮影は進んで、とても素敵な笑顔の写真がいっぱい。
***
帰りは結局6時を過ぎていて、疲れちゃったちいちゃんは眠っている。遅くなっちゃったから何か食べて帰ろうか、と妻に話すと、そうだねと妻は言った。
外を見るといつのまにこんなに日がのびたのか、薄暗いなかになんとなく昼間の名残りが残っている。自動車販売店のショーウインドウのなかの電飾はなんだか淋しげに光っている。
春がくるんだな。
ぼくはそんなことをなんとなく思った。春になればちいちゃんはもう2年生。こんなふうにいつのまにか時間は過ぎていくのかな。見逃したくないなあ、とぼくは思った。ちいちゃんのたいせつなときを、ぼくは見逃していないだろうか。
とにかく、いまをたいせつに生きなくちゃな。言葉にするとありきたりだけど、多分ぼくはそんなことを思っていたんだと思う。
***
先日はちいちゃんの誕生日だったけれど、今日は妻の誕生日。プレゼントはマッサージに行かせてもらったからいいよという妻だけど、そうもいかないから、だから今日はプレゼントを買って帰るつもりだけれど。
センスの悪いぼくのこと。さて、どうなることやら。
ハッピーバースデイ
きょうはちいちゃんの誕生日。
長かったような、あっという間だったような、でもやっぱりあっという間だったのかな。
あっという間、
7歳だね。
おめでとう!
いつも素敵な笑顔をぼくたちにくれてありがとう。ささくれだったこころもまるくやさしくしてくれてありがとう。
ぼくたちはついついいろんなことを経験して欲しいとか、思っちゃうんだけどどうかちいちゃんはそんなことは気にせずに過ごしてください。笑顔のたくさんな1年であれたならそれでいいのだから。
誕生日プレゼントはもう渡してしまったけど、きょうは帰ったらささやかなパーティーだね。ケーキはちいちゃんが選んでくれるってことだったから楽しみにしているよ。こんな日に組合関係の定例会があって帰りが遅くなっちゃって申し訳ないけれど、とてもとても楽しみにしているからね。
***
ここのところ、ちょっと忙しい。
日曜日には仕事の関係で何年ぶりだろうか、試験を受けた。久しぶりに横浜まで電車で行っての試験。少し特殊な業界にいるのでその知識を深めるための試験なのだけど、受験料なんかは会社が負担してくれる。
ただぼくの仕事は基本経理なので業界の知識は少ないから、これはそれなりにたいへん。でもなんというか、今後もこの業界で仕事をしていく上ではありがたい話なのかもしれない。
が、
問題はあんまり勉強する時間ってとれなくてってこと。ちいちゃんを寝かしつけてからって思うのだけど、結局できたのは試験の前数日間くらい。あとはお昼休みにちょっとずつくらいで、結果はあんまり芳しくなかったかもしれないなあ。こりゃ、いつかちいちゃんが受験生になったときぼくはえらそうなことは言えない。
結果は3月中に郵送されるんだとか。話題に上らなかったならまあ、ダメだったということで。
***
試験から帰ると妻とちいちゃんが出迎えてくれて、写真を撮ろうと言った。
先々週くらいだろうか、ひな人形を飾っていて、その前でみんなで写真を撮ろうってことらしい。親王飾りというのでしょうか、お内裏さまとお雛さまだけのものですが、妻の両親が用意してくれたものでとても素敵なひな人形。
去年まではひな人形を怖いと言っていたちいちゃんでしたが今年は大丈夫みたいで、飾り付けるのも一緒に手伝ってくれました。
ひな人形の上の壁に妻とちいちゃんでハッピーバースデイという文字を飾り付けてくれていて、その前で記念写真を撮りました。
セルフタイマーが物珍しいちいちゃんはふざけて何度か失敗したけれど(シャッターがきられる瞬間にわざとカメラの前に近づいたり、突然歌い出してぼくたちを笑わせたり)、でも家族3人のとても素敵な写真が撮れたんじゃないかと思う。
「素敵な写真が撮れたね」と、ぼくが言うと、そうでしょうとなんだかしてやったりみたいな感じで妻が言った。
うん、なんかその表情はちょっと悔しいけどこういう思い出作りはママが上手。またひとつたいせつな思い出が増えたね。
さて、
きょうは帰ったらささやかなパーティー。早く帰りたいものだな。
そんなことを言われたらぼくは
昨日、仕事から帰るとちいちゃんは駆け寄ってきて言った。
「見て、パパ。わたしね、歯っかけになったの」
もうすぐ7歳のちいちゃん。下の前歯2本はすでに生え変わっているけれど、ぼくから見てその右側の1本がちょっと前からなんだかぐらぐら。
先週の日曜日に気になると言うので、ぼくはガーゼでつまんで抜いてしまおうと試みたのだけれど、まだ根本はけっこうしっかりしていて抜けない。なので、もう1週間様子を見てみようね、ということにしていたら、昨日、大好きなベーグルを食べているときに抜けちゃったらしい。
「びっくりしちゃったよ」と、ちいちゃんは言った。「なんかね、変だなーと思ったんだけど。口のなかにかたいのがあって、それが歯だったの」
「うわ」と、ぼくは言った。「それはびっくりするよね。よくがんばったね」
「ぜんぜん」と、ちいちゃん。「がんばってないよ。なんか知らない間に抜けちゃって良かった」
「そっか。それなら良かった」
「うん」
そしてちいちゃんは口を大きく開けて、ねえ、もう血止まってる? と聞いた。そんなちいちゃんを見て、なんだか知らないけどぼくはちいちゃんが幼稚園だったころのことを思い出した。
ちいちゃんが年少のころだったろうか、パン屋を辞めてからいまの仕事に戻る前に別の会社に勤めていたころぼくは肺炎になって仕事を2週間近く休んだときがあって、安静にしてなくちゃダメってことだったけど、ある程度体調が良くなるとぼくはちいちゃんの幼稚園の送り迎えを始めた。後にも先にも、ぼくがこういうことをできたのはこのときだけ。
幼稚園まではちいちゃんに合わせても歩いて10分もあれば着いてしまう距離で、でもそんな短い距離がぼくにはとても貴重な時間だった。
朝、起きて朝食を用意して、洗濯を干し、そしてちいちゃんを起こして慌ただしく朝食を食べさせ、トイレに行かせて着替えをさせて歯磨きをして。
あなたは仕事に行っているから楽でいいよね、とよく言われるけれどぼくからすればそんな時間こそうらやましくも思ったりする。もちろん妻が欲しい言葉はそんな言葉ではないことは重々承知しているし、面と向かってそんなことは言ったりもしない。
でもぼくはどうしてもそんなことを思ってしまう。それはないものねだりなのかもしれないし、毎日じゃないからそんなことが言えるんだって言われたらぼくに返す言葉はないけれど。
幼稚園の正門の前で先生に挨拶をして、ぼくはしゃがんでちいちゃんの背中をポンポンと2回軽くたたいて、それから「行ってらっしゃい」と声をかける。
ぼくがそこから玄関へ向かうちいちゃんの背中を見つめていると、まだ幼かったちいちゃんは何度も振り返りながら歩いていく。なんだかそれはうれしいような、せつないような、そんなきもちだったことをいまでもよく覚えている。
あのころぼくはたぶん、全力でちいちゃんを守らなくちゃって思ってた。それはいまも変わってはいないのだけれど、でもあのころのぼくはちょっと気負い過ぎていたのかもしれない。もしかしたら妻もそうだったのかもしれない。
いま、口を大きく開けて歯の抜けたあとをみせるちいちゃんを見て、ぼくはそんなことを思う。ぼくがどうとかじゃなくて、きみは少しずつけれどしっかりと成長しているんだね。
「うん」と、ぼくは大きく口を開けるちいちゃんに言った。「だいじょうぶ。しっかり血は止まってるみたいだよ」
***
まだまだぜんそくの薬を飲み続けているちいちゃん。この手の薬は症状が良くなっても飲み続けなければいけないらしくて、そんなこともあってなんとなくまだ遠出は控えているのだけど、先週は例のちいちゃんの誕生日プレゼントを買いにイオンに行った。
誕生日プレゼントをもらったちいちゃんはとてもうれしそう。帰ると早速、ごっこ遊びが始まった。とても、喜んでくれてありがとう。
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プレゼントはこんな おもちゃ。これでちいちゃんはキュアアンジュに変身。なんだか主役の子じゃなくて水色の女の子が好きみたい。ちなみにぼくはハリーという関西弁のへんな妖精役とその他大勢。そんなごっこ遊びはぼくが夕食を準備を始めるまで続いた。
さて、
ごっこ遊びの後、先週末の夕食メニューは土曜日がブリの照り焼き。妻には「またおんなじメニューじゃん」って言われちゃったけど、でもブリがね、安かったのだ。そして日曜日はちいちゃんのリクエストでグラタン。
市販のグラタンの素を使ったものだけど、チーズをたっぷりかけたグラタンはちいちゃんの大好きなメニュー。
「おいしいから食べられちゃうね」
なんと、
妻がそんなことを言ってくれた。なんかさ、そんなこと突然言われちゃうとぼくは戸惑っちゃうんだ。なんて言っていいんだか分からない。それでもやっぱりうれしかったから、「ありがとう」とぼくは小さな声で、でも多分いつもよりちょっと素直に言った。
お酒はほどほどにね
先週も金曜日は仕事で銀行へ行ったので、少しのあいだだけれどNHKラジオでごごラジを聞くことができた。
ごごラジ、金曜日のパーソナリティは高橋久美子さん。なんか、やっぱり高橋さんはとても面白い。
1月末、関東地方も大雪の日があったけれど、この日に高橋さんは滅多に経験できないからということで夜中に夫婦で雪の東京を歩いたんだとか。一緒に歩くだんなさんもきっと素敵な方なのだろうなあと想像したりしてしまう。
もしかして、
高橋さんてトトロが見えたりするんじゃなかろうか。なんて、そんなばかみたいなことまで考えたりしてね。仕事中、ちょっとやさしいきもちになったりした。
さて、
この日のごごラジ。テーマが「やらかし五七五」というもの。いろいろやってしまったなあってことを川柳で読んでくださいってことみたい。
川柳で読むっていうようなセンスはないけれど、ぼくにもやってしまったなあってことならやっぱりそれなりにある。
で、
思い出すのは、去年のちいちゃんの誕生日。ちいちゃんの誕生日は2月の後半。ちなみに妻はその5日後。ちなみに、なんて言ったら妻には怒られちゃうかもしれないけれど。
去年は誕生日の直前の土曜日にちいちゃんの誕生日プレゼントを買いに行こうね、と話していた。けれど、その前日がたまたま仕事でお酒を飲む機会があったのだ。ぼくは普段そういう機会でもそんなに飲まないので油断をしていたのだけれど。
その日は組合関係の意見交換会があって、その年度1年の事業活動についての報告と次年度の事業計画案や活動そのものについて相談というか、そんなことをするのだけど、やってしまったのはそのあとの懇親会。それは居酒屋でのこと。
ぼくはたまたま専務理事の真ん前の席に座ってしまった。専務理事というのは、まあ、簡単に言うとえらいひとなのだけれど、どうやら日本酒がお好きなようでけっこうなペース。ぼくはそんなに飲めないけれど、なにが好きかと言えば好きなのは食事と一緒にちょっと飲む日本酒。もしくはちょっとのウイスキー。
あくまでちょっとなのだ。
さて、
ぼくは基本会社員だから、組合活動は通常の仕事ではない。だから当然組合の専務理事と話すことも普段はほとんどない。だからこんなときはけっこう困ってしまう。どんな話をすればいいのかなあと。懇親会だし、あんまり仕事の話もなと思うし、堅苦しい話も馴染まない。けど専務理事、読書が好きらしく、なんと話が合ってしまった。
「専務理事はどんな本を読むんですか?」と、ぼくは聞いた。
「そうだなあ」と、専務理事。「小説ばっかりなんだけどね、ぼくは藤沢周平なんかは全部読んだよ」
「そうなんですか」と、ぼくは言った。偶然だけど、ぼくも藤沢周平さんがとても好きなのだ。「ぼくも好きなんですよ。映画も観ましたし」
「山田洋二監督のだね。ぼくも観たよ。まあでも、やっぱり小説の方がいいね。奥行きがあるよ」
「そうかもしれないですね」と、ぼくは言った。「でも、なんかとっつきには映像っていうのはいいもので、ぼくは藤沢周平さんを知ったのはテレビドラマなんですよね。蝉しぐれという小説が原作のドラマなんですけど」
「そうか、蝉しぐれか。あれは代表作のひとつだね」と、専務理事は言った。「たしかにあれはテレビドラマも良かったね」
そんなとき、店員さんがエシャロットがのった一皿を持ってきた。
「専務理事、ひとつどうですか」と、ぼくは尋ねた。
「いや、ぼくはいいよ」と、専務理事は答えた。「そんなしゃれたもの食べたことないんだよな。らっきょならね、食べるんだけど」
すると、隣りに座っていた専務理事と同年代の組合の相談役が言った。「そうですか、どっちも似たようなものじゃないですか」
「いや、それがね」と、専務理事。「違うんだよ。これがさ、ぜんぜん」
「あれですよね」と、ぼくは言った。「食べ方が違うんですよね。ほら、らっきょ漬けならいいみたいな」
「おお」と、なぜか上機嫌になる専務理事。「お前、よく分かってるじゃないか。ほら、空じゃないか。飲め飲め」
と、
専務理事は小説や映画の話になると饒舌で、ぼくもそんな話ならぼちぼち話すこともできて、その度日本酒がつがれ楽しい会話のお酒は進んで、つい飲み過ぎてしまった。
でも考えてみると、ぼくはいま経理の仕事をしているけれど、経理の限られた狭い範囲の仕事だけでなく、業に関わる流れのなかで経理という仕事を通して会社の益する仕事をしたいと考えたとき、失礼な話かもしれないけれど社内にはなかなか参考にすべき上司がいなくて、そんな意味では専務理事はぼくが仕事をするうえでお手本とすべきひとなのかもしれない。そんなことを専務理事と話していて感じたりもした。
現場を知らないぼくはいつもどこか居心地の悪さというか、申し訳なさというかそんなものを感じていたから、なんとなくこれからの仕事のちょっとした道筋がほんの少しだけれど見えたような、そんな気もして飲み過ぎてしまったのかもしれない。それだけ楽しかったのだと思う。
けど、
それはそれ。日本酒は飲んだその日は良くて、ぼくは楽しいお酒だったなあなんて思いながら家に帰り、ちゃんとお風呂に入り、歯もみがいたのだ。でも約束の翌日。
あたまがいたい。
きもちわるい。
ぼくはひどい二日酔い。ちいちゃんと誕生日プレゼントを買いに行くことはできず、それは妻に任せることになった。そしてぼくの二日酔いは2日じゃ済まず、なんと月曜日まで続くことになり、やらなきゃいけない仕事だけはなんとかこなし早退することになった。
で、
今年。ちいちゃんの誕生日はもうちょっと先だけど、待ちきれないちいちゃんは土曜日に買いに行きたいと言った。
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今年、ちいちゃんが欲しい誕生日プレゼントはこんなおもちゃ。あいかわらず、プリキュアが大好きなちいちゃん。先日始まったばかりの新しいプリキュアのおもちゃが欲しいみたい。
まだちょっと早いのだけれど、そんな去年のおはなしもあったので今年は早めに誕生日プレゼントを買いに出かけることになった。
「ねえ、パパ」と、プレゼントを買いに行く前日にちいちゃんは言った。
「お酒はほどほどにね」
「はい」と、ぼくは苦笑い。そんなことまで言えるようになったんだね。まあ、今年の意見交換会は3月の予定だし、多分もう大丈夫だと思うんだけど。
「ごめんね、ちいちゃん」と、ぼくは言った。「今年は多分、大丈夫だと思うよ」
ちいちゃんは、にこっと笑った。
365日
土曜日、イオンに家族で行った際に立ち寄った本屋さんで、こんな本を買った。
我が家では夜、寝室に布団を三つ並べて、ちいちゃんをまん中によく言う川の字で寝ているのだけれど、淋しがりやのちいちゃんはよくぼくの布団のなかにもぐり込んできて一緒に寝てくれる。
で、
お風呂のパターンと一緒で、眠たくなるまで2人して適当な物語を作ったり、小さな人形を持ち込んで小さなこえでごっこ遊びをしたりと過ごすのだけど、最近、ちいちゃんは、
「眠たくなるまで、なにかおはなしをして」
と、言うことが多くなった。そんなときぼくは知っている物語やちいちゃんと観た映画やアニメのおはなしをすることが多いわけだけど、けっこう記憶ってあやふやでうまく話してあげられなかったり、性格なのかぼくは自分で勝手な物語を作り上げてしまう。
まあ、
それはそれで楽しんでくれているのかもしれないけれど、でもやっぱりちゃんと正確な物語も話してあげなくちゃいけないなあとも思うようになった。
それで購入したのが、「子どもが眠るまえに読んであげたい365のみじかいお話」という本。
もともとぼくはこの手のダイジェスト版みたいな本は苦手で、どうせならちゃんとした原作を最初から最後まで読みたい、読んで聞かせてあげたいと思うのだけれど、現実的にはそうもいかない。それにぼくがどうこうよりもちいちゃんには日本も含めて世界のいろいろな物語を知って欲しい。
もし、そのなかでこころ惹かれる物語があったなら、そのときちいちゃんがその物語の原作を本屋さんや図書館で探してくれるようになってくれたならいいなと思うし、こころ惹かれるものがないのならそれはそれでいいのだし。
そんなきもちだったのだけど。
結果はなんというか想像以上で、ちいちゃんは毎晩その本を読むことをとても楽しみにしてくれるようになった。
ひとつひとつの物語に読んだ日にちを記入できるようにもなっていて、なんだかそれも楽しみのひとつみたい。なんかね、読んだ物語がちょっとずつ増えていくっていうのも楽しいものなのかもしれないね。
ぼくはというと、実はぼくも一緒に読むのをけっこうというか、とても楽しみにしている。なにしろ365日分なのでぼくなんか知らないおはなしばかりだし。
それに、
名目はどうあれ365日、ちいちゃんに物語を読んで聞かせてあげられる。ちいちゃんとふれあう機会が、一緒に考える機会が増えるわけで。
それは普段一緒に過ごす時間の少ない父親として、とてもとてもしあわせなことかもしれないなあと思ったりしている。
淋しがりやは、ぼくなのかもしれないな。
***
先週末も、ちいちゃんと妻は本調子とはいかなかったのであまり遠出はせずに過ごすことになった。
そうなると俄然やる気を出すのはぼく。
おいしい夕食を作りたい!
というわけだ。まあ、なぜかあんまりそんなやる気があるようには見えないらしいのだけれど。
で、
先週のメニューはと言うと、土曜日が豚丼リベンジ。そして日曜日は手抜きなわけじゃないけど、ちいちゃんのリクエストでビーフシチュー。今度はちゃんとした牛肉を使った。
ん、
なんだか肉ばっかりになってしまった。ごめんなさい。
さて、
豚丼、これは以前に作ったとき「悪いけど、これは食べられないな」と妻に言われちゃったいわくつきのメニュー。甘いだけで味がないと言われちゃったのだ。
なので今回はレシピをしっかりネットで調べた。豚肉300グラム程度、玉ねぎ中1個、砂糖大さじ1、酒大さじ2、しょうゆ大さじ3、みりん大さじ1。
これに彩りににんじんと、ちいちゃんが好きなのでしらたきを加えてみた。ちいちゃんがというかぼくかな。ぼくが好きなもので。
これに大根と油揚げのおみそ汁。それにりんご。さて、妻とちいちゃんの評価はというと、、、。
「ちょっと、全体的に味が濃くない?」
と、妻。夕方におやつ代わりに茅ヶ崎にある大好きなベーグル屋さんのベーグルを食べてしまったちいちゃんにいたってはほとんど食べない。
「ん?」
はい。
撃沈。ぼくは言い返す気力もなく、「つぎはがんばるよ」と、ささやくように答えた。ちなみにぼくはけっこうおいしかったんだけど、たしかにちょっと味は濃かったかもしれない。つぎはしょうゆの量を調節すればちょうどよくなるかもしれないな。
そして、
日曜日はビーフシチュー。
市販のルーは素晴らしい! 妻もちいちゃんも文句もなく食べている。そりゃ、ちょっと奮発した牛肉はおいしいよね。
いったい、
いつになったらおいしいって言ってもらえるかな。まだまだ先は遠いみちのりみたい。
悪い子はどこだ
3日は節分。
あまりしっかりとというわけではないけれど、我が家でもささやかな豆まきをした。
毎年、節分というとぼくが鬼になる。まあ、鬼というか、モンスターズ・インクのサリーみたように、
「がおー!」
と、鬼のお面を被ったぼくが両手をあげて叫ぶわけだけど。昨年までのちいちゃんはそれがとても面白かったみたいで、全力でぼくに向かって豆を投げつけてきたものだった。手加減なしなので、これがけっこう痛い。なぜか妻も一緒になって投げつけてくる。
ねえ、
なんかぼくにうらみがあるの?
みたような感じだったのだ。
が、
今年は学校で自分が作った鬼のお面を被りたいみたいで、「私が鬼をやる」とちいちゃんは言い出した。で、かわいい鬼のお面を被ったちいちゃんは、
「悪い子はどこだー」
と、言ってなんだか不思議な踊りをしながら登場。あまりのかわいさにぼくも妻も思わず笑ってしまった。
ちいちゃん、
それ、なまはげだから。鬼じゃないから、、、。
というわけで、良いか悪いか分からないけれど我が家では鬼じゃなくて神の使いに豆を投げつけるというなんとも罰当たりな節分なってしまった。
ごめんなさい。
***
さて、
週末はまだ本調子じゃないちいちゃんと妻でしたが、日曜日から始まった新しいプリキュアを観たちいちゃんはしっかりと合言葉をチェック。
毎年のことだけど、おもちゃ屋さんでその合言葉をお店のひとに伝えると新しいプリキュアの紹介DVDがもらえる。というわけで、日曜日はみんなでトイザらスへ行くことに。それとね、もうすぐ誕生日のちいちゃん。誕生日プレゼントの下見をかねて、ということにもなった。
「おやすみは、きりんさんへ行こう!」
と、ちいちゃんは週末を前になんだかずっととてもうれしそうにしていた。トイザらスに行くと壁に楽しげなきりんの家族の絵が描いてあって、なので我が家ではいつからかトイザらスは「きりんさん」と呼ばれているのだけれど、久しぶりのきりんさんを楽しみにしてくれていたから行けて良かった。
小さな子どもの視線と言うのは面白くて、トイザらスを「きりんさん」と呼び始めたのはちいちゃんだった。ちいちゃんが生まれて以来、ぼくはなんどもトイザらスに行っていたけれど、そんなきりんの絵にはまったく気づいていなかった。でも、ちいちゃんが見ていたのはそんなきりんの絵。
ねえ、
ちいちゃん。
ちいちゃんには、この世界はどんなふうに見えているんだろう。正直に言うと、ぼくにはこの世界はきれいなばかりのものじゃない。たぶん、多くのおとながそう思ってる。
それでも、たとえばとても冷たい朝に輝く朝日や、夜が訪れる前のうまく言い表せない切ない夕焼けだとか、おばあちゃんに優しさを見せる青年だとか、冬のまだ寒い時間に洗濯物を干す妻の指先とか、そんなものを見つけたり、想像したりして世界の美しさを確認している。
でも、
できるならちいちゃんにはこの世界は美しいと言ってあげたい。そんなふうに言いきれるようにぼくたちは生きなくちゃいけないんじゃないだろうか。
なんて、
そんなの偽善者に過ぎないかもしれないけれど。でもまじりけのないちいちゃんを見ていたら、本気でそんなことを思ったりもするのだ。
それはたぶんほんとのきもちで。きっと、だれもが持っているほんとのきもちなんじゃないかな。
たぶん、きっと。
きりんさんの絵を見つめながら、ぼくはなんとはなしにそんなことを思ったりした。