ぼくは平日のちいちゃんをほとんど知らないけれど
ぼくの朝は、一日分の麦茶を沸かすことから始まる。
起きるのはだいたい5時くらいで、以前の仕事に比べたらゆっくり。妻が起きてくるのは6時くらいなので、それまでにちょっとした朝の準備を済ませる。
麦茶を沸かしたり、前日に洗った食器類を片づけたり、洗濯物を干しやすく取り出しておいたり(干してくれるのは妻)、自分の身支度をしたり、通勤の車のなかで食べるサンドイッチを作ったりしていると6時くらいになって、
「おはよう」
と言って、妻が起きてくる。
「おはよう」
なのでぼくも答えて、ちいちゃんを起こしに寝室に上がる。
ぼくの出勤時間はだいたい6時から6時半のあいだくらいで、幼稚園のころはちいちゃんを起こさずに出勤していたけれど、新居に移ったころから朝にパパがいないと泣いてしまうことが多くなってしまって、以来朝はちょっと早いけれどぼくが出勤する時間にあわせて6時ごろに起こすようになった。
なんというか、これはとてもとてもしあわせなことで。朝、ぼくがいないと泣いてくれるなんて。こんなにしあわせでいいのだろうか?
だからその日も、6時くらいに寝室へちいちゃんを起こしに行ったのだけれど、寒くなってきてからちいちゃんの寝起きは悪くてなかなか起きない。
なのでぼくはあの手この手と起こす方法を考える。「おっはよー、アンクルグランパだよ」って言ってみたり、「はっ、はっ!ぼく、ミッキーマウス。ちいちゃんを起こしに来たよ」なんて言ってみたり、「おいしいパンが焼けたよ」ってジャムおじさんになってみたり。
まあ、
あんまり効果はないのだけれど。結局、パパお仕事だからあとでママに起こしに来てもらう? って聞くと、もそもそと起きだしてきて、
「パパ、だっこ」
で、
だっこして階段を下りながら「おはよう」と改めてちいちゃんに言うと、「おはよう、パパ」とちいちゃんもなんとか答えるけれど、居間のソファに座らせると、すぐにこたつのなかへ。
夏とかはけっこう平気で起きていたんだけど、寒くなるとけっこう違うもので、なかなか目が開かない。
ちいちゃんを起こしたらぼくは出勤なので、コートを着てママとこたつのなかにもぐりこんじゃってるちいちゃんに「行ってくるね」というと、ちいちゃんも「行ってらっしゃい」って、半分寝たままで返してくれるのだけれど、その日のちいちゃんの答えは、
「行ってきます」
ぼくも妻も笑ってしまった。
「ちがうよー」と、ぼくは言った。「行ってらっしゃいでしょ」
「んー」と、ぼんやり目を開ける。「そうだった。行ってらっしゃい」
ねえ、
ちいちゃん。
知ってた? そんな寝ぼけまなこのちいちゃんが、ぼくが頑張れる大きな大きなちからになってるって。
ぼくは妻やちいちゃんが話してくれる断片的なちいちゃん以外は平日のちいちゃんをほとんど知らないけれど、でもこんな朝のひとときだけでなんだかとてもしあわせになれるよ。
朝、
眠たいのにぼくにあわせて起きてくれてありがとう。行ってらっしゃいって、送り出してくれてありがとう。